Out of Control  
12/26 Bunkamuraシアターコクーン
上原ひろみ&熊谷和徳
 

 天才たちが再び邂逅する。3年前にニューヨークで出会ったふたりは、ピアノとタップという異ジャンルのコラボレーションを試みた。僕はそれを2年前、恵比寿ガーデンホールで目撃した。互いのイマジネーションがぶつかり合い、散らす火花を互いのリスペクトが包み込む。とてもフレッシュなセッションだった。あれから時を経て親交を深めたふたりの、世界唯一のパフォーマンスがどんな変貌を遂げているのか。超満員の客席で開演を待った。

 若干の緊張が入り混じった拍手の中、上原が左から、熊谷が右からステージに登場。至近距離で顔を見合わせるやいなや、リズムのユニゾンからライブが始まった。もうふたりにとって、探り合いなど必要ない。セッションはすぐにトップギアに入る。上原は要所要所で自ら弾くピアノと熊谷に、掛け声をかける。速いパッセージの応酬に、観客は度肝を抜かれてシーンと静まりかえっている。「PLACE ST.HENRI」がアッという間に終わり、はっと我に返ったように客席から大拍手が起こった。

 今度は熊谷が上原から距離をとって立ち、スウィングするリズムの「BOUNCING WITH BUD」がスタート。熊谷のタップから、上原と同質のメロディが聴こえてくる。一方、上原の左手の指が、熊谷と同質のアタックの強いタップを奏でる。上原がソロを取ると熊谷は立ち止まって指を鳴らす。次の瞬間、熊谷がタップを踏みながらステージ左はしまで一気に駆け抜けた。聴覚と視覚の両方を強く刺激されて、観客はうなる。これも短い曲で、終わると上原はピアノから立ち上がって、熊谷と互いに拍手し合った。もち ろん観客もふたりに大きな拍手を贈る。2年前とは比べものにならない、力強いイントロダクションだった。

「年の瀬のお忙しい中、ありがとうございます。大阪、浜松、名古屋とツアーのゲストとして参加して、毎日すごくハードなんですけど、今日は明日のことは考えずに全力を出し切りたいと思います」と熊谷。「しかも今日はホットスタッフ30周年のイベントということで、おめでとうござい ます。タイトルの“OUT OF CONTROL”は、制御不能という意味だそうです(笑)」と上原。ふたりの気迫が会場に伝わって、気鋭のジョイントが始まった。

 第一部はパワーとスピードにあふれる展開。10本の指先でピアノを限界まで鳴らす上原と、全身のグルーヴをタップシューズに 集約してフロアを蹴り叩く熊谷のバトルが観客を圧倒し続けた。だから第二部の初めで客席から登場し、タップを披露してステージに熊谷が着くのを合図に上原がガーシュウィンの大曲「RHAPSODY IN BLUE」の優雅なイントロを弾き始めると、第一部とはまったく異なるアプローチに観客は瞬時にしてこのコラボの深みに引き込まれた。

 楽章ごとに姿を変えるセッション。あるときはぶつかり、あるときは寄り添って歴史的名曲をふたりの解釈で表現する。言葉なしでダイレクトに心に響く素晴らしいラプソディとなった。

 さらにアンコールでふたりは手拍子で観客を巻き込み、音楽のパフォーマンスとしては未知の領域に会場を運ぶ。心の底から感動し、芯から上気した観客の表情が、このライブの真価を雄弁に物語っていた。

<第一部>
  1. PLACE ST.HENRI
  2. BOUNCING WITH BUD
  3. ROUND MIDNIGHT
  4. HIROMI SOLO
  5. PLACE TO BE
  6. KAZ SOLO
  7. BRAIN

<第二部>
  1. PHAPSODY IN BLUE

 en1.GREEN SLEEVES
 en2.SPAIN

text:平山雄一  photo:松本誠司