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サイン会、などというものをしたことのある読者はいるだろうか?、あんまりいませんよね?
表現活動や人気商売に従事し、かつ、よほど厚顔無恥でない限りは、なかなかする機会のない催しだ。
幸か不幸か私はいづれの要素にも当てはまってしまったため、デビュー以来これまでに30〜40回ものサイン会を行ってきた。
先日も渋谷のタワーレコードで語り下ろしの新書「サブカルで食う 就職せずに好きなことだけやって生きていく方法」のサイン会を行った。
沢山の方々が集まってくれて感謝と申し訳無さでいっぱいだ。
サイン会のよいところは、読者の方々への感謝の気持ちと、自信、創作へのやる気がわくところだ。
まったく本を作るなどは地道極まりない孤独な作業で、ダイレクトに声援をいただけるステージ仕事などを知っているとさらに、読んでくださっている方との交流は、貴重な励ましの時間となり得るのだ。
ただ、なかなかしんどい行事という一面もあるっちゃある。
数十秒単位で次々と数百人の人々と対峙し、言葉を交わし握手など触れ合いもする行為は、他では滅多にあることではない。
人間には時間内対峙人数キャパというものがあるようで、百人を越えるころになるとちょっと意識がもうろうとしてくるのだ。
千人単位で触れ合うアイドルの方々なんかは、大変だろうなと思う。
そりゃ倒れもしますよ。
せっかく並んで下さっている皆さんに失礼があってはならない。
何年も(10年以上の方も)サイン会の度に来て下さる方もいるので、せめて「いつもありがとう」という気持ちを伝えるべく、リピーターの方の場合は何か一つポイントを覚えておいて言葉をかけるようにしている。
だが、時としてそれはタモさんの「髪切った?」ほどのテキトー感に思われてしまうことも多いようだ。
今回は、いつぞや光GENJIの内海君のファンであったと昔ファンレターに書いていた方が並んでくれていたので、順番が来た時「内海君、どうしてる?」と尋ねたところ「…なんで十何年も内海君の近況を報告しなくちゃいけないんですか!」と、切れぎみで正論の返答をいただいた。
まったくである。内海君は舞台などで活躍されているそうだ。
告白すれば、サイン会は少なからずの恐怖心が伴う。
手をのばせば触れる距離に次々と人が現れるという状況は、セーフティーゾーンへの侵入を無意識が感じとるのだろう。
グサッとナイフでやられるんじゃないか?
みたいな警戒心が時にわき上がる。
いつだったかサイン会の列の中に、純白のスーツにマドロスのような船長帽をかぶり周りの人々誰彼かまわず声高に話しかけている中年の男性(つまり、横山やすし師匠そのものの風体ということだ)がいて、近づくにつれ彼が“宇宙についての話し”をし続けているのが聞こえてきた。
こんなこと言っては申し訳ないが、私は電波の殺気を感じ取り、かねてよりいざという時に考案していた「大槻流サイン会護身術」の準備体勢に入ったのである。
それは、もし危険な輩が近距離からのナイフその他による襲撃を開始した場合、浅く座った姿勢から彼の膝頭を足刀で蹴り折り、同時にサイン用の机を両手ではねあげ彼の鼻骨をつぶすと共に、サイン本めくり役の隣にいる編集者引っつかまえ足ばらい、ドー!っとばかりに同体で襲撃者の上に倒れこみナイフを編集者の体でガード(これにより編集者が死ぬのは残念だが仕方のないことだ)、手ぶらになった襲撃者を胴じめチョークスリーパーで落とすといった流れるようなムーブだ。
自宅で何度か練習したこともある。
しかし幸運なことに、マドロス男性は私にも宇宙の話しをすると満足したのかサインもらって去っていった。
「大槻流サイン会護身術」について、被害妄想的であるとか、よっぽどお前の方が電波系だとか御意見もあるであろうが、こういう仕事をしていると、やっぱりちょっと妖しのオーラを放っている人が接近してくることも多々あるので、自己防衛本能が強くなってしまう側面はあるのだ。
実際に、町中でいきなり抱きつかれた、くらいの事は何度かある。
ある時のそれはUFOマニアの方であった。
歌舞伎町あたりを歩いていた時にいきなり、横から飛びでてきた男性がすごい形相をして私の両肩をつかみ「大槻さん!コンノケンイチのUFO写真はインチキですよおおおっ!!」と炎上し始めたのである。
「え!?は、はぁ!?」
「コンノケンイチですよ!コンノケンイチのUFO写真はニセモノですよええっ!大槻さんもそう思いますよねぇっ!」
コンノケンイチさんとは「月はUFOの発進基地だった!」などの著作を持つUFO研究家の方である。
コンノさんのアンチであるらしい男性が、UFO好きで知られるオーケンを見つけて思わず同意を得るためつかみかかったということなのであるが、対UFOマニア護身術も考案していなかったし、言うだけ言って男性はサッサと去っていったので、すごくコワかったんだけど大したことにならずホッとした。
ところが数日後に彼とまた町でバッタリ出くわしてしまったのだ。
二回目とあって男性のコンノ先生ディスりもちょっとトーンダウンしていた。
そしたらなんとまたまた後日に町でバッタリ!?
これ、もしかして赤い糸?
3回目ともなればすっかりテンションの落ちついた男性に、私は先制攻撃を
しかけた。
ニコッと笑って彼を指差し「コンノケンイチっ!?」と言えば彼もこちらをピッと指差し「コンノケンイチ!」
ふっと微笑み、「コンノケンイチ」「コンノケンイチ」二人はそれ以上の言葉を交わすことなく、まるで昔のフランス映画みたいに都会の雑踏の中ですれ違い、そしてもう出会うことはなかった…て、だからなんなんだ。
就職せずに好きなことだけやって生きてるとついつい落ちも何も無いコラムを書いてしまうというお話でありました。
追記
サイン会護身術その2。
左手でサイン本を盾にしてファンの方のナイフを受け、あらかじめ頭部に鋭利な刃物を装着しておいたサインペンでファンの方の目を突き刺す。
ただ、アイドルの場合はファンの方の眼鏡装着率が高いことが予想されるので、鼻の下の「人中」を一突きする方がより有効かと思われる。
今後サイン会を行う予定のある諸氏は一日300回反復練習してもらいたいものである。
就職せず好きなことだけやって生きていると、こんなバカなことばかり毎日考えるようになる。「サブカルで食う」は白夜書房から絶賛発売中。